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神戸地方裁判所 昭和53年(行ウ)11号 判決

兵庫県三原郡南淡町阿万下町四三八番地の二

原告

坂部正

右訴訟代理人弁護士

今中利昭

吉村洋

角源三

村林隆一

右訴訟復代理人弁護士

井原紀昭

小泉哲二

深井潔

千田適

州本市山手一丁目一番一五号

被告

州本税務署長

小泉龍司

右指定代理人

坂本由喜子

安居邦夫

間田要輔

平井武文

生駒禎助

光森章雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

被告が原告の昭和四九年分所得税について昭和五〇年一一月一五日付でなした更正処分のうち税額金八万六〇〇〇円を越える部分及び重加算税賦課決定処分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は、その昭和四九年分所得税について、確定申告書に、

1 不動産所得 金一二万八、〇〇〇円

2 分離短期譲渡所得 金八六万六、四〇〇円

3 納付すべき税額 金八万六、〇〇〇円

と記載して被告に対し申告していたところ、被告は、昭和五〇年一一月一五日付で、

1 不動産所得 金一二万八、〇〇〇円

2 分離短期譲渡所得 金六、八五九万三、八〇〇円

3 納付すべき税額 金四、一二七万一、〇〇〇円

4 重加算税 金一、二三五万五、五〇〇円

とする所得税更正処分及び重加算税賦課決定処分をなした。

二  原告は、右処分を不服として、被告に対し、異議申立をなしたが昭和五一年三月五日棄却され、さらに国税不服審判所長に対してなした審査請求も昭和五二年一二月一五日棄却された。

三  しかし、原告の昭和四九年分の所得金額は、第一項の確定申告書記載のとおりであり、更正処分のうちこれを越える部分及び重加算税賦課決定処分は違法であるから、これが取消を求める。

(請求原因に対する認否)

請求原因一、二の各事実は認め、同三の原告の昭和四九年分の所得金額が確定申告書記載の金額に過ぎない旨の主張は争う。

(被告の主張)

一  被告のなした所得税更正処分及び重加算税額賦課決定処分の内容は次のとおりである。

〈省略〉

二  右表の三分離短期譲渡所得金額は、原告が、昭和四四年七月二日に取得した別紙物件目録(一)記載の山林(以下、A山林という。)を、昭和四九年三月一九日帝都観光開発株式会社(以下、帝都観光という。)に、昭和四九年三月三一日に取得した別紙物件目録(二)記載の山林(以下、B山林という。)を、昭和四九年一一月一一日田村元に、それぞれ売却したことにより生じたもので、その明細は次のとおりである。

〈省略〉

三  原告は、A山林の帝都観光への売主であるにもかかわらず、あたかも訴外坪内茂善(改正前の姓夏川)と帝都観光との間に売買がなされたかのごとく仮装し、右山林についての昭和四九年分の所得を隠ぺいした。そこで、被告は原告に対し、重加算税の賦課決定処分をした。

(被告の主張に対する認否)

一  被告の主張一および二のうち、原告が、B山林を昭和四九年三月三一日代金四五七万九、〇〇〇円で取得し、これを田村元に対し代金五四四万五四〇〇円で売却したことは認め、その余の事実は否認する。同三も否認する。

二  原告は、A山林を所有したことはあるが、昭和四三年一二月二〇日に坪内茂善に売却しており、帝都観光が昭和四九年三月一九日に右山林を買い受けたのは、坪内茂善から取得したもので、その代金は原告の収入金額となるものではない。

三  仮に、原告が帝都観光へA山林を売却したと認められるとしても、原告がA山林を取得したのは昭和四三年一二月であるから、被告の主張する売買の日である昭和四九年三月一九日との間に五年間余の期間が存するから、短期譲渡所得を前提とした本件課税処分は違法である。

四  被告は、原告が所得を隠ぺいした旨主張するが、原告がA山林を坪内茂善に売却したことは真実であり、仮にその立証ができないため、更正処分を甘受しなければならないとしても、所得を隠ぺいしたものではないから、重加算税の賦課決定処分は違法である。

第三証拠

(原告)

一  甲第一ないし五号証、第六、七号証の各一、二、第八ないし一〇号証

二  証人榎本亀一、同坪内茂善の各証言、調査嘱託及び原告本人尋問の各結果

三  乙第五号証、第九、一〇号証の各二の各成立は不知、第一一号証、第一一号証の一、二中、各官署作成部分の成立は認め、その余の各部分の成立は不知、その余の乙各号証の成立はいずれも認める。

(被告)

一 乙第一号証、第二号証の一ないし六、第三ないし八号証、第九、一〇号証の各一、二、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし四二、第一四ないし一七号証、第一八号証の一ないし一〇、第一九、二〇号証の各一、二、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一、二、第二三号証、第二四号証の一、二、第二五ないし三三号証、第三四号証の一、二

二 甲第一号証、第六号証の一、二の各成立は認め、その余の甲各号証の成立は不知

理由

一  請求原因一、二の各事実及び被告主張一の事実は当事者間に争いがない。ところで、原告が、昭和四九年一一月一一日B山林を田村元に代金五四四万五、四〇〇円で売却したが、右山林は昭和四九年三月三一日に代金四五七万九、〇〇〇円で原告が取得したものであることが当事者間に争いがなく、したがって、B山林の右譲渡益が短期譲渡所得の対象となり、かつ右譲渡による所得金額が、金八六万六、四〇〇円であることが明らかであるから、以下、A山林の譲渡所得金額の有無について検討する。

二  成立に争いのない甲第一号証、乙第六号証、同第九、一〇号証の各一、証人榎本亀一の証言により真正に成立したと認められる乙第九、一〇号証の各二、同第一二号証の一、二(各官署作成部分の成立については争いがない。)、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一一号証(官署作成部分の成立については争いがない。)によると、

1  A山林の所有者であった榎本亀一は、昭和四四年七月二日これを原告に対し、代金四六二万九、〇〇〇円で売却する旨を約し、原告は同日右代金の一部として小切手で金一〇〇万円を支払ったこと、

2  原告は、その後昭和四四年八月一四日に右代金の一部として金二〇〇万円を、同年一一月一四日残金一六二万九、〇〇〇円をそれぞれ支払って右売買代金を完済し、同年一二月二五日所有権移転登記を経由したこと

が認められる。

原告は、A山林を取得したのは昭和四三年一一月であると主張し、甲第二号証(仮証)、同第三号証(証明書)を提出し、証人榎本亀一の証原及び原告本人尋問の結果中には一部これに沿う部分が見られるのであるが、成立に争いのない乙第七号証、証人榎本亀一の証言によると、榎本は、原告にA山林を売却する以前の昭和四三年一一月に三原郡南淡町阿万東町字畠ケ谷七四三番の山林を原告に売却している事実が認められ、右甲第二号証の仮証は、右土地の売買代金の領収証である疑いが濃く、また、前記甲第三号証、証人榎本亀一の証言及び原告本人尋問の結果中原告の主張に沿う部分も、前記認定に供した各証拠に照らし、採用できず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

三  原告は、昭和四三年一二月二〇日坪内茂善に対しA山林を代金一、〇〇〇万円で売却したと主張するが、本件全証拠によるも右主張事実を認めることができない。もっとも、原告は、右主張に沿う甲第四、五号証を提出し、証人坪内茂善の証言及び原告本人尋問の結果中には、右主張に沿うところがあるけれども、

1  右売買契約の日とされる昭和四三年一二月二〇日は、原告がA山林を榎本亀一から買い受ける契約をする六ヵ月も前であること、

2  原告本人尋問の結果によると、原告は昭和四三年分の所得税の確定申告にあたり、A山林の譲渡所得について申告していないこと、

3  前記甲第一号証によると、A山林が、元番である一一七四番山林一〇四、九四五平方メートルから分筆されたのは昭和四四年一二月一七日であり、原告への所有権移転登記がなされたのは同月二五日であるが、原告から坪内茂善への売買契約書とされる甲第四号証には、分筆後のA山林の表示が正確に記載されているほか、登記簿上既に原告の所有名義となっていることを前提とする記載が存するから、右甲第四号証は、後日作為的に作成されたものと認められること、

4  前記甲第一号証、成立に争いのない乙第一四、一五号証、同第二九号証によると、原告は、坪内茂善にA山林を譲渡したとされる後である昭和四四年一二月二五日に至って自己名義で所有権移転登記を得、更に昭和四五年一〇月一六日に自己の取引先である淡路信用金庫との間の与信取引契約に基き、元本極度額を二〇〇万円とする根抵当権を設定し、昭和四七年二月一九日右極度額を一、一〇〇万円に変更していること、右極度額変更に際し淡路信用金庫から借り受けた九〇〇万円のうち、金三〇〇万円は同月二五日原告名義の定期預金になっており、右の一事から見ても右与信契約に基く取引は、坪内茂善のための取引ではなく、原告自身の取引と認められること

以上の諸事実によると、原告の主張に沿った前記証人坪内茂善の証言及び原告本人尋問の結果は採用できず、前記甲第四号証(土地売買契約書)及び同第五号証(誓約書)は、いずれも原告が後記のとおりA山林を帝都観光に売却するに及んで、譲渡所得を隠ぺいするため作為的に作成されたものと推認せざるを得ない。

四  前記甲第一号証、成立に争いのない乙第一号証、同第二号証の一ないし六、同第四号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第七号証の一、二、弁論全趣旨により真正に成立したと認められる乙第五号証によると、

1  原告は、昭和四八年六月四日帝都観光に対し、A山林を代金七、四六五万六、〇〇〇円で売却する旨の契約をし、右代金完済時に所有権が移転する旨の合意をしたこと、

2  帝都観光は原告に対し、右売買契約の日に手付金七五〇万円を支払ったほか、数回に分けて売買代金を弁済し、昭和四九年一月三一日に完済したため、昭和四九年三月一九日帝都観光のための所有権移転登記が経由されたこと、

3  原告は、右売買契約の仲介者である土井忠雄に対し、仲介手数料として昭和四八年一一月六日金一〇〇万円、昭和四九年一月三一日金一二九万九、六〇〇円をそれぞれ支払ったこと

が認められる。

原告は、右売買はA山林の登記簿上の所有名義が原告となっていたため、便宜上原告が売主の形式をとったのにすぎず、売買代金は坪内茂善に帰属すべきものであると主張するが、その失当であることは、既に認定したところから明らかである。

五  以上認定したところによれば、原告は、昭和四九年分の短期譲渡所得として、B山林にかかる金八六万六、四〇〇円のほか、A山林にかかる金六、七七二万七、四〇〇円(収入金額七、四六五万六、〇〇〇円から、必要経費としての土地取得費四六二万九、〇〇〇円及び仲介手数料二二九万九、六〇〇円を控除した金額)があったものであり、かつ原告は、右所得を坪内茂善らの協力のもとに甲第四、五号証を作成するなどして隠ぺいしたものというべきである。

よって、被告が昭和五〇年一一月一五日付でなした本件所得税更正処分、重加算税賦課決定処分は、いずれも適法であるから、これが取消を求める原告の本訴請求はいずれも失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、行政事件訴訟法七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阪井昱朗 裁判官 森脇勝 裁判官 高野伸)

物件目録

(一) 兵庫県三原郡南淡町阿万東町字鴨路一一七四番地の一

山林     九二、五四五平方メートル

(二) 徳島県三好郡山城町西字蔭山一四五四番地外四筆

山林   合計二四、七五二平方メートル

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